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村上春樹「羊をめぐる冒険」の札幌を歩く

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「羊をめぐる冒険」の中の札幌

「札幌の街は広く、うんざりするほど直線的だった」とあるように、村上春樹の「羊をめぐる冒険」は、札幌の街を舞台として描かれている物語です。もう少し正確に言うと、物語の前半は東京で、後半が北海道となっていて、後半の北海道編の導入部分が札幌の街を舞台にしている、ということになる。

この小説は、主人公が一匹の羊を探し出すという非常に難解なミッションを背負って北海道にやってくるのだけれど、主人公はここ札幌の街で、その羊の居場所を突き止めるために重要な手がかりを手にします。物語はここから大きく展開していくことから、札幌の街は物語をクライマックスへと導くための経由地的な役割を果たしていると言えるかもしれません。

物語の核心的な部分の舞台となった十二滝町のモデルは道北の美深町仁宇布だと噂されているけれど、若き日の村上夫妻が本作品の取材のために、少なくとも美深町の手前に位置する士別市まで訪れていることは、どうやら事実みたいです(一応、作者が公言しているので事実だと思いたい(笑))。

士別まで取材に行く際には、当然札幌にも立ち寄るだろうから、本作品の中の札幌に関する描写にも、作者の実体験が織り込まれていると考えて良いのではないでしょうか。もっとも、作者が実際に札幌を訪れている割には、本作品における札幌に関する描写は非常に貧弱でリアリティがないことは確か。およそ空想によって描かれているのではないかという疑惑も生じるけれど、部分的には妙に説得力を持って輝いている文章があることも、また事実です。

中でも有名なのは「札幌の街は広く、うんざりするほど直線的だった」というフレーズ。もちろん、これとて村上春樹による新しい発見ということではなくて、明治以来札幌を訪れる旅人の誰もが指摘していることであり、実際に多くの文人が記録としても残していること。まあ、文房具屋で買った磁石を持ち歩く演出は、村上春樹的スパイスによる味付け効果が、十分に生かされていると言っていいかもしれないけれど。

もうひとつ、札幌らしさを感じる部分ということでは、飛び入りで入ったお店で食べたジャガイモとサケの料理が美味しかったという場面があります。「ホワイトソースはさっぱりとしてしかもこくがあった」という感想は、あるいは実体験から生み出されたものかもしれないけれど、いずれにしても、札幌でなけれで得られないとまで言える体験でもないわけで、文学散歩の題材としてはやはり物足りないような気はします。作者の実体験豊かな東京の描写や、たっぷりの想像力で描かれた十二滝町の描写と比べると、札幌という街の描写はかなり中途半端だということか。

もちろん、作品中における重要性を考えて、意識的にバランスを崩して描かれているという可能性も否定できないでしょうね。東京や十二滝町に比べると、数日間滞在しているとはいえ、札幌は確かにひとつの経由地点に過ぎないし、街の描写にあえて濃淡を付けることで、舞台の重要性を演出していると考えれば納得がいきます。

問題は「札幌は物語の重要な舞台ではない」という本質的な部分にあるのであって、札幌の描写が物足りないからと言ってブツブツ言うのは地元の人間のわがままというものなんだろうなあ(というか単に寂しいだけという話もあるけれど)。

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ささら
ささら
札幌ソロ活代表。18歳のとき、住みたい街ランキング1位の札幌に移住。カフェ巡りと文学散歩を軸に、季節の札幌散策を楽しんでいます。好きな言葉は「振り出しに戻る」。