札幌には老舗の中古レコード屋さんが2軒あります。
南郷通の「文教堂書店」と、平岸の「ページワン」です。
今回は、白石区南郷通にある「文教堂書店」のお話です。
本とレコードの文教堂書店
大学2年生のとき、中古レコードの蒐集に目覚めた。
時代は、レコードからCDへの移行期で、僕は、ようやく新しいCDコンポを購入したばかりだったけれど、その頃は、レコードプレーヤーもまた、音楽好きにとっては必要なデバイスの一つだったのだ。
新譜をCDで揃える一方、CDで聴くことのできない旧譜は、中古レコード店を探し回るしかなかった。
僕が集めていたのは、1960年代末から1970年代にかけて流行した日本のフォークソングで、1980年代後半、URCレコードとかエレックレコードなんていうマニアックな世界の音楽に興味を示す大学生は、かなり貴重だったのではないかと思う。
とりわけ、僕は、プロテストフォークとか反戦フォークなどと呼ばれる、社会的メッセージの強い音楽が好きだった(覚えたてのギターを持ち歩いて、あちこちで「自衛隊に入ろう」とか「友よ」なんかを歌ったものだ)。
高石友也、岡林信康、高田渡、中川五郎などのレコードが、少しずつ狭い部屋に集まってきて、やがて、僕のアパートは、ちょっとした中古レコード屋の倉庫みたいになってしまう。
その頃、僕が通っていた中古レコード店の一つに「文教堂書店」があった。

文教堂書店は、白石区の南郷通7丁目の交差点角にあるショップで、音楽関係の古本と中古レコードを中心に扱っていた。
80年台後半に、70年代初期の音楽情報を仕入れようと思ったら、当時の音楽雑誌を読むしかない。
僕は、文教堂書店で、古い音楽雑誌(新譜ジャーナルとか)を買って当時の新譜情報をチェックし、雑誌で得た知識をもとに古いレコードを買った。
1987年当時、中古レコードは、まだ重要な音楽媒体のひとつだったらしく、札幌中心部にはいくつも専門店があって、文教堂書店も「ビッグオフ」に支店を持っていた。
「ビッグオフ札幌店」は南1条西1丁目にあったディスカウントショップ。その前は「長崎屋」というデパートだった。現在は「ジュンク堂書店」が営業中。
ここには、本店の約3倍の在庫を取り揃えていたから、街へ行けば、必ず顔を出して、シングルレコードの一枚や二枚は買って帰ったものだ。
それでも、昔ながらの古本屋という雰囲気を漂わせた本店は、やはり魅力的だったような気がする。
カタログ通販や独自図書券というシステム
文教堂書店では、老舗の古書店らしく、カタログによる通信販売も行っていた。
会員登録しておくと、定期的に商品カタログが送られてきて、商品を選ぶことができるようになっていた。
インターネットのない時代、古本や中古レコードを集めるために、当時の趣味人はそれなりに苦労していたのだ。
ちなみに、現在では、文教堂書店も、<ヤフオク>や<日本の古本屋>で商品を取り扱っている。便利な世の中になりましたね。
このお店でしか使うことのできない「図書券」の存在も、文教堂書店を語るときに忘れてはならないものだろう。

文教堂書店では、1000円の買い物につき100円相当の「図書券」を渡してくれる。
これは、次回の買い物の際に使える割引券で、有効期間が記載されているから、それまでの間に、再びお店を訪れなければならない仕組みになっていた。
リピーターを確保するための取組だが、札幌市内の古書店では珍しいシステムだったように思う。
大学を卒業した後に就職した会社を2年で辞めて、お金に困っていたとき、僕は、書籍やレコードを相当数処分した。
そのとき、文教堂書店のオヤジさんが「良い本は売らない方がいい」と諭してくれたことを覚えている。
多分、ビジュアル図鑑的な専門書のセットものが多かったと思うのだけれど、この手の本は需要が少ないから引き取り価格も安い。
そのくせ、いざ、買い戻すとなったら、古書価はそれなりに高額だから、できるなら売らない方がいいと教えてくれたのだ。
貴重な本を売らなければならないほど、僕は生活に困っていたわけだが、結局、そのとき持ちこんだ本は売らずに持って帰った。
あのときの本は、今でも我が家の本棚に残っているから、文教堂のオヤジさんの言うとおり、売らなくて正解だったのかもしれない。
今、お店は代替わりして、女性が一人でお店を切り盛りしている。
集める物は変わったけれど、文教堂書店は今でも、僕にとって大切なお店のひとつだ。
店名:文教堂書店
住所:札幌市白石区南郷通8丁目
営業時間:11:00-19:00
定休日:毎週月曜日
駐車場:あり(結構広い)
アクセス:地下鉄東西線「南郷通7丁目」からすぐ