旧・札幌ピープル

写真家・森山大道が撮った昭和の北海道「NORTHERN」

森山大道という写真家をご存じでしょうか?

今回は国際的に著名なストリートスナップの神様が著した北海道の写真集についてのお話です。

写真集のタイトルは「NORTHERN」。

森山大道さんのこと

「NORTHERN」の著者である写真家の森山大道さんは、1938年(昭和13年)10月、大阪府に生まれました。

アレ・ブレ・ボケ」と表現される独特の作風の白黒写真で知られる森山さんは、路上の光景を見たままにとらえる「ストリートスナップ」の分野において日本を代表する写真家であり、

また、カメラのファインダーを覗かずにシャッターを切る撮影技術「ノーファインダー」の第一人者でもあります。

1960年代に作品を発表して以来、多数の写真集を出版するとともに、数多くの個展を開催するなど精力的な活動を続け、日本のみならず国際的にも高い評価を得ています。

2009年から2011年にかけては、北海道内各地で「森山大道写真展 北海道 -序章-」を開催、北海道においても高い人気を集めています。

森山大道さんの札幌時代

写真家・森山大道さんは、1978年(昭和53年)5月から7月までの3か月間を札幌市内で過ごしています。

札幌での短期間の生活を選んだ理由について、森山さんは「逗子や東京ででの生活と写真に対する倦怠感から逃れるため」と述懐しています。

また、明治初期に函館で活動していた写真師・田本研造への思いが、北海道行きを決断させたとも述べており、これら複数の要素が重なり合って、森山さんの札幌での生活は始まったものと思われます。

札幌滞在中、森山さんは道内各地の地方都市へ出かけ、いくつもの街の路上で数多くのスナップ写真を撮影しました。

撮影旅行はまれに宿泊を伴うこともあったものの、基本的には毎日のようにバスや列車で地方都市まで出かけては、夜遅くに札幌へと戻ってくる生活だったそうです。

どんな写真集なの?

写真集「NORTHERN」は、札幌や夕張、美唄などで開催された「森山大道写真展 北海道-序章-」を記念して、2009年に図書新聞から出版された写真集で、1978年の札幌滞在中に森山さんが道内各地で撮影した膨大なネガフィルムから厳選された作品が収録されています。

特筆すべき点としては、森山さんの北海道に対する思いが巻頭インタビューという形で14ページに渡って収録されているほか、付録DVDとして、インタビューの音声と掲載作品のスライドが収録されているなど、お買い得感はかなり高い1冊だと思います。

2009年版は既に入手困難ですが、2016年3月に「普及版」が発行されており、こちらは現在も入手可能です(価格3,240円)。

ゆるゆる読書レポート

古い話になってしまいますが、僕はこの写真集を夕張市内で開催されていた「森山大道写真展 北海道-序章-」の会場で購入しました。

2009年のことです。この写真展は、札幌、夕張、美唄、東川と道内各地を巡回していたもので、幸運なことに僕はそれぞれの開催地で写真展を観ることができました。

写真集ももちろん良いのですが、展示会場で観る大きなプリント写真には、その感動がストレートに伝わってくるという大きな魅力があります。

ただ、実際に写真展を観た上で、写真集を鑑賞することによって、一枚の写真が第一印象とは違う感動を何度も何度も租借させてくれることは確かだと思います。

僕はこの写真集をふたつの観点から楽しみました。

ひとつは純粋に森山大道さんの作品集としての観点で、もうひとつは、1970年代の北海道各地の風景を知る貴重な記録としての観点です。その両方の意味で、この写真集は僕の好奇心を十分に満足させてくれたし、「新しい写真を撮りたい」「古い北海道のことをもっと知りたい」という気持ちを喚起してくれる大きな起爆剤ともなりました。

実際、自分自身この時期は異常なくらいストリートスナップばかりを撮りまくっていたような気がします。

注意点としては、本作はあくまでも路上スナップとしての作品集であり、記録的な価値を求めるルポータジュではないということです。

匿名性(アノニマス)が尊重される路上スナップにおいては、必ずしも撮影場所を特定する必要はないため、本写真集にも撮影日時や撮影場所などの情報を記したキャプションはなく、記録写真としての用途を考えた場合、その活用が限定的になってしまうことは確かです。

ただ、一人の写真家がある特定の一時期に北海道内を歩き回りながら撮影した膨大な写真記録であることは間違いないので、研究者にとっては歴史的価値を有する貴重な資料として活用することも十分に可能だと思います。

むしろ、膨大な写真の中から「何か」を発掘する楽しみ、新しい「何か」を発見する喜びが隠されていると言えるかもしれません。

撮影舞台がいわゆる観光地ではなく、庶民が普通に生活している当たり前の街並みだったというところも、ストリートスナップならではの醍醐味だと思います。

1970年代後期における北海道各地の地方都市の路上光景が、一人の人間によってこれだけ大量に記録されているということは、相当にレアなことなのではないでしょうか。

個々の作品は丁寧に撮影されているというよりも、飢えた獣が餌を貪り喰うがごとくにシャッターを押しまくった痕跡が記録されているかのようで、当時の撮影者がいかに孤独と焦りに満ち溢れていたかが、ストレートに突き刺さってきます。

路上スナップという分野の写真が、これほどまでに撮影者の感情を反映させられるものなのかという、その驚愕こそが、この写真集を観る者に与える感動なのかもしれません。

森山さんの写真は鮮明ではない分、説明的ではない写真が多いので、その作品の鑑賞には豊かな想像力が求められます。

いろいろな妄想を膨らませながら、70年代の北海道を飛び回ってみるには、最高の写真集だと思いますよ。写真集を手に妄想旅行を楽しみましょう!

ゆるゆる写真散歩

本作では撮影場所などのデータが付記されていないので、すべての写真について撮影箇所を特定することは困難ですが、札幌市内で撮影したと推定される写真も一部には含まれています。

今回は、本写真集の中に登場している「札幌と思しきスポット」を実際に訪ね、写真が撮影された当時とどのような変化があるのか、確かめてみました。

狸小路

今回、僕が選んだ写真は、狸小路2丁目で撮影したと思われる写真です。

写真の右端に包丁・刃物の「宮文刃物店」が写っていることから、宮文刃物店の前辺りから西に向かって狸小路を撮影した写真であることがわかります。

森山さんの写真では、狸小路にはたくさんの人が歩いていて、活気のある様子が伝わってくるようです。

あれから40年、狸小路はどのように変わったのでしょうか。

狸小路

森山さんの写真とは季節が異なるので単純に比較することはできませんが、明らかに違うことがひとつあります。

それは、現代の狸小路には多くの外国人観光客が歩いているということです。

札幌の日常風景の中にこれだけ多くの外国人観光客が歩いている時代が来るとは、40年前にはきっと想像さえもできなかったでしょうね。

それにしても、森山さんの写真の時代に比べると、現代の狸小路は何だか妙にこざっぱりとしています。

清潔感は増したのかもしれませんが、多少の猥雑さの中に人間らしい生きるエネルギーを感じていた時代も、きっと悪くはなかったんだろうなあと思いました。

まとめ

世界的に著名な写真家が撮った札幌の路上スナップ。

そう考えると、俄然胸がワクワクしちゃいますよね。

この写真集には、そんなワクワク感がたっぷりと詰め込まれているんです。

それでは最後に、写真集「NORTHERN」のお勧めポイントをご紹介しましょう。

・世界的に有名な写真家・森山大道さんの作品が楽しめる
・名もなき地方都市の街並みが記録されている
・著者のインタビューが収録されている

こんな写真集を手に札幌散策というのも、きっと楽しいと思いますよ。

参考になれば幸いです!

ABOUT ME
kels
札幌住み歴38年目。「楽しむ」と「整える」をテーマに、札幌ライフを満喫しています。妻と娘と三人暮らし。好きな言葉は「分相応」。