旅をすると、自分の街が見えてくる。
住んでいるだけでは見えなかった良いところや良くないところ。
旅に出て、札幌を知ろう。
そんな「さっぽろ旅くらべ」、今回はニューヨーク・タイムズが選ぶ「今年行くべき世界の旅行先」で世界第2位にランクインした街・盛岡へ、小さな旅に行ってきました。
なぜ、盛岡市が、世界第二位になったのか、その理由が分かったような気がします。
コンパクトなサイズ感は散策にぴったり

盛岡の旅は、文学の旅だ。
街の至るところに、石川啄木と宮沢賢治の文学碑がある。
地図を片手に文学碑巡りをするだけで、盛岡の街に詳しくなってしまうかもしれない。
意外と、徒歩だけで回れてしまうくらい、盛岡の街はコンパクトだ。
このコンパクトな感じは、札幌にはない。
散策をするのに、ちょうどいいサイズ感。
文学館「もりおか啄木・賢治青春館」を中心に、石川啄木と宮沢賢治ゆかりの地を訪ねて歩いてみた。
いーはとーぶアベニュー材木町は宮沢賢治の世界

盛岡のヒーローは、やはり宮沢賢治だ。
「いーはとーぶアベニュー材木町」は、まるで宮沢賢治の世界そのもの。
あのイーハトーヴォのすきとおった風、夏でも底に冷たさをもつ青いそら、うつくしい森で飾られたモリーオ市、郊外のぎらぎらひかる草の波。(宮沢賢治「ポラーノの広場」)
「モリーオ市」のモデルは、もちろん盛岡市。
旅行から戻ったら、真っ先に『ポラーノの広場』を読んでみようと思った。
盛岡市民に愛されている宮沢賢治

盛岡の人は、宮沢賢治に親近感を持っているらしい。
花巻駅から空港まで乗ったタクシーの運転手さんは、訊いてもいないのに、宮沢賢治の話をしてくれる。
「そこに賢治先生の家があるんですよ」
そう言えば、街の本屋を覗くと、宮沢賢治のコーナーがちゃんとあった。
中途半端なゆるキャラなんていらないくらい、宮沢賢治は盛岡のキャラクターだ。
石川啄木の青春時代を辿る

文学碑の数は、宮沢賢治よりも、石川啄木の方が多いかもしれない。
と思われるくらい、街のあちこちに啄木の歌碑がある。
たった二週間しか滞在しなかった札幌と違って、盛岡は、啄木にとって青春の街だ。
青春の歌が、盛岡の街には溢れている。
定番施設「啄木新婚の家」もいいけれど、「石川啄木・若山牧水 友情の歌碑」のように、ちょっと変わった文学碑もいい。
啄木が東京で病死したとき、詩人仲間で臨終に立ち合ったのは若山牧水だけだった。
「友情の歌碑」というのも温かくて、何だか盛岡らしいような気がする。
盛岡駅前の啄木歌碑の裏側に「啄木であい道」という、古い説明版があった。
古いモノを撤去しない姿勢に好感が持てる。
札幌ともゆかりの深い新渡戸稲造の出身地

盛岡は、新渡戸稲造の出身地でもある。
札幌農学校出身の新渡戸稲造は、もちろん札幌との縁が深い人物だが、盛岡の人の新渡戸稲造に対する敬意はすごい。
なにしろ、あちこちに新渡戸稲造の像や碑がある。
つまり、盛岡という街は、歴史を大切にする街なんだろうな。
生家跡を公園にした「新渡戸稲造生誕の地」は、地元出身の偉人に対する誇りが感じられる。
札幌の「遠夜夜学校跡地」なんか、恥ずかしい感じがするくらい(笑)
北星女子高校の名付け親が、新渡戸稲造であることを知っている札幌市民は、どのくらいいるだろうか。
文学マップは盛岡の散策ツール

街の随所にある文学マップも、盛岡の散策ツールになっている。
観光スポットが点ではなく、しっかりとした線で繋がれているのだ。
市民の共通理解があるからこそ、貴重なリソースをトータルコーディネートできるのだろう。
簡単そうなことだけれど、役所が旗を振るだけでは、こういう取組は難しいかもしれない。
盛岡はレトロ建築の宝庫

ニューヨーク・タイムズでも、盛岡の魅力の一つとして紹介されているが、街を歩くと、歴史的建造物が目に付く。
観光スポットというよりは、日常生活の中に溶け込んでいる感じの建物たち。
観光ガイドで探し当てていくよりも、偶然に見つけた建物の方がうれしい。
例えば、黄色いスクラッチタイルで、すぐに昭和初期の建築と分かる「岩手県公会堂」。
北海道大学の農学部を小さくしたような建物は、佐藤功一の設計によるものだ。
こういう建物が、現在も現役で活用されているところがいい。
北上川、中津川、雫石川の流れに沿って散策

盛岡を散策していると、やたらに橋を渡る。
ニューヨーク・タイムズで「川が流れる自然が満ちており」と書かれているとおりだ。
北上川、中津川、雫石川の流れに沿って散策するのも楽しいし、橋を越えながら盛岡の街を散策するのも楽しい。
川から吹いてくる風って、どうしてこんなに気持ちいいんだろう。
朝の出勤時間帯でも、盛岡の街は混雑していない

ニューヨーク・タイムズには「人混みを避けて歩いて回れる珠玉の街」と紹介されているけれど、朝の出勤時間帯でも、盛岡の街は混雑していなかったような気がする。
通勤の人たちがいないわけではなく、ちょうどいい距離感を保って人が歩いている感じ。
札幌みたいに外国人観光客が多すぎるということもない(ホテルには外国人も宿泊していたけれど)。
盛岡みたいなサイズの街にインバウンドが集中したら、あっという間にオーバーツーリズムになってしまいそうな気がする。
いわて花巻空港に流れる「緑の町に舞い降りて」

いわて花巻空港には、ユーミンの曲が流れていた。
1979年のアルバム『悲しいほどお天気』収録曲の「緑の町に舞い降りて」。
さざ波はるかに渡ってゆく
飛行機の影と雲の影
山すそかけおりる
着陸ま近のイヤホーンが
お天気知らせるささやき
MORIOKAというその響きが
ロシア語みたいだった
松任谷由実「緑の町に舞い降りて」
この曲は、iPhoneのプレイリストにも入れているお気に入りの一曲。
派手なキャンペーンソングじゃないから、盛岡の街にちょうどいい感じ。
ユーミンも、きっと、盛岡の街が好きになったんだろうなあ。
盛岡冷麺と焼き肉をリピート

「盛岡三大麺」と呼ばれているのは、盛岡わんこそば、盛岡冷麺、盛岡じゃじゃ麺の三つ。
全部食べたけれど、このうちリピートしたのは盛岡冷麺だけだった。
最初の夜は「ぴょんぴょん舎」、最後のランチは「大同苑」。
どちらも焼き肉と一緒に食べたけれど、焼き肉と麺が、こんなにマッチするなんて、なんだか不思議だ。
「大同苑」の盛岡総本店では、前沢牛と冷麺がセットになった「上焼肉ランチ」をチョイス。
冷麺と焼き肉食べるためにも、いつかまた盛岡へ行きたい。
お土産は地元のクラフトビール「ベアレンビール」

盛岡旅行のお土産。
地元のクラフトビール「ベアレンビール」と千代の亀酒造「日本酒 銀河鉄道」は、お酒の好きな妻へのお土産。
宮沢賢治が好きな娘へのお土産「賢治手拭い(星めぐりの歌)」と「賢治キーホルダー(雨ニモマケズ)」と「宮沢賢治の豆本(『銀河鉄道の夜(上下)』」は、「もりおか賢治・啄木青春館」で購入したもの。
文学館「もりおか賢治・啄木青春館」のミュージアムショップは、商品のラインナップがかなり充実していた。
札幌の「北海道立文学館」の方が立派な施設なのに、お土産は断然に盛岡の方が充実している。
なぜだ?
まとめ

盛岡と札幌を比べてみて思ったこと。
盛岡の街は、文化度の高い街だ。
上品な大人の街と言ってもいいのかもしれない。
下品で押しつけがましい観光業じゃなくて、市民が誇りを持って街を作っているという感じ。
特に、ゆかりの人々に対する敬意がすごい。
文化人への敬意が、そのまま盛岡の観光を支えるエネルギーとなっている。
うちの街は、こんなに凄いんですよという誇り。
対して札幌は、今や旅行者のための街だ。
観光客が喜ぶイベントと、観光客が喜ぶお土産品。
まあ、それはそれで悪くないのかもしれないけれどね。
